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「イコンの聴き方~山下りんのイコンに心の耳を傾ける」

ダヴィド水口優明

​2018年文化講演会より

イコンから流れてくる肉体の耳には聴こえない音楽。 心の耳で、 その音を、リズムを、メロディーを、ハーモニーを聴く時、 何ものにも代えがたい 「天の世界」を味わうことができる。

イコンは、 しかしスピーカーから出てくるCDの音楽のようではなく、むしろ、見る者自身が心の指や息を使って奏でる楽器のよう。

山下りんのイコンは、すばらしい音をかもしだす、まさしく名器と呼べる。 その名器を奏でて、心の耳を傾けて、イコンの本当のすばらしさを

知るために、 イコンの聴き方 (奏で方) を学びます。

聖書の知識 :楽譜のよう。 楽譜を知らないでは、 曲の演奏は困難。 聖書の基礎知識がなければ、それが何であって何を言いたいのかがわかならい。 ただポロン、ポロンとつま弾く(漫然と鑑賞する) だけではつまらない。 聖書の内容やイコンの背景となる出来事を知ることによって、イコンが心の音楽となる。

教義、神学、天の世界:そのイコンが奏でる曲には、 深い意味がある。 意味を聞き取ってこそ、その音楽(イコン) は生きたものとなる。

祈祷文:イコンは、描かれた祈り(言葉)。 祈りの言葉は、 歌われるイコン。 正教会の祈祷文は、その意味を言葉で解き明かす役割をもっている。 祈りの言葉を知ることによって、イコンという楽器を豊かに響かせることができる。

祈りの心:感謝、讃美、痛悔、 祈願の心を呼び覚ますのが、イコンを聴く (見る/読む)目的。 これを忘れていては、イコンはただの絵画になってしまう。

「イコンは、書かれた言葉に劣らず、 正教会の伝統と信仰を伝える楽器(インストゥルメント)である。 聖なる像をとおして神聖神は、私たちに語りかけ、真理を啓示する。」

「イコンは礼拝のための助け手である。 イコンを置けば、もうそこは祈りの場所となる。」

「イコンは、それ自体に目的はなく、 私たちの肉体の目を神秘的な体験の領域へと超えさせる目的がある。」

~JIM FOREST PRAYING WITH ICONS ”イコンと共に祈る”

「板や壁に描かれているイコンは、この世の中に可能となる神との交わりを想起させて、その体験の第一歩をもたらすためにある。 このような意味から、イコンをよく天国の窓と呼ぶのである。 だがそれはけっして、この世の外にある天国に窓を開けているのではなく、この世がその内に持つ意義の世界に窓を開けているのである。 ・・・この世が内蔵するのは神がこの世に託した意義である。 ・・・ 人が人生の途上でそれを見出したとき、この世の中に天国を見るようになる。」

~高橋保行『イコンのこころ』

ハリストス降誕のイコン

解説

「羊飼たち」 : 純朴で素直な人々を象徴。

「夜」 : 聖書における神の顕現の時間帯。 /

神の光を失った罪深いこの世をも象徴。

「羊の群れの番」 : 季節は冬ではない。

「主の御使」 : 天使たち。

「主の栄光」 : 造られざる神の光。

「彼らは非常に恐れた」 : 天使=神の顕現への畏怖。

「大きな喜び」 : 救世主の降誕→神を讃美する慶び。

「伝える」 : 正教会訳では 「福音す」。

「ダビデの町」 : ハリストスはダビデの家系から降誕。

「あなたがたのために」 : 人を救う為に神が人となった。

「布にくるまって」 : 全身が布でまかれている状態。

「飼葉おけ」 : 家畜は馬ではなく、 牛とロバ。 降誕場所は

馬小屋ではなく、 洞窟。

「天の軍勢」 : 夥しい数の天使たち。

「至と高きには 光栄 神に帰し、 地には平安降り、

人に恵みは臨め。」 (正教会訳)

「ベツレヘム」 : 「パンの家」という意味。

「急いで行って」 : 「救い」 を求める熱い心。

「マリヤとヨセフ・・・ 幼な子を捜しあてた」 : ハリストスと

の出会いこそが 「救い」。

「マリヤは・・・心に留めて思いめぐらしていた」 : 私たちの

お手本。

「あがめる」

「大きくする。」

「神を・・・ さんび」 : 「大いなる喜び」 に満たされた。

「帰って行った。 」 : 日常へ戻るが、 以前とはちがう。

藉身の神学

造成主である神が、 天より降って、 人となった。

三位一体 (至聖三者) のうちの神子が、 私たちと同じ人間として童貞女マリヤから生まれた。

ハリストスは神でありながら、 人間性をもつお方である。
一格person (神格)と二性nature (神性と人性)

ハリストスは、 人として肉体と霊 (神° ) の両方をもつ (正教会では「受肉」 とは言わない)。

ハリストスの神性と人性は 「混じらず、 変化せず、 分かれず、離れず」 に一つになっている。

「人を神とするために神は人となった」 (聖アタナシウス)

藉身は、 神の謙遜 (ケノーシス) である。

降誕祭の祈祷文より

① 「父の同永在の言よ、爾は夫を識らざる者より出で、肉体を以て洞に入りて、獨槽を宝座となせり.博士と牧者とは爾の畏るべき摂理に驚き、 天使等は之を奇とす. 光栄は雨の権能に帰す」

②「造成主よ、 爾は地の者となりて、地に生るる者を新たにす. 芻槽と襁褓と洞とは爾の謙遜の徴なり.」

③ 「今日、 万物を手に保つ者は童貞女より生れ、本性の触るべからざる神は地の物の如く襁褓に裏まれ、太初に言を以て天を堅めし者は芻槽に臥し、 野に於いて人々にマンナを雨らしし者は乳房より乳にて

養われ、 教会の新郎は博士を召し、 童貞女の子はその礼物を受け給う. ハリストスよ、 我等、 爾の降誕に伏拝す. ハリストスよ、 我等、 雨の降誕に伏拝す. ハリストスよ、 我等、 爾の降誕に伏拝す.

爾の神聖なる神現をも我等に示し給え」

ハリストス、 生まる、 崇め讃めよ.

ハリストス、天によりす、迎えよ.

ハリストス、地にあり、 挙がれよ. 地、 挙って主に歌えよ.

人々や、楽しんで崇め讃めよ. その光栄、輝けばなり.

木製の壁のようなものがあるが、全体的に「背景」はなく、伝統的なイコンと同じく「天の世界」を表わす金色 (黄色) で覆われている。

ここはもはやベツレヘムの家畜小屋 (洞窟) ではなく、イコンの前に立つ者の心の中で起きているべき出来事。

主之洗礼のイコン

解説

「バプテスマ」: 洗礼のこと。 「水に浸す。」

「ヨハネ」 : 正教会では「イオアン」。

「悔い改めよ」 : 救世主を受け入れる準備。

「主の道を備えよ」 : ハリストスの前駆としての役割。
正教会では 「前駆授洗イオアン」 と言う。

「らくだの毛ごろも」 : 旧約の預言者エリヤの姿と似ている
(列王記下 1:8)。 ヨハネはエリヤの再来とも。

「いなごと野蜜」 : 荒野に住む者の通常ではない食べ物。

「自分の罪を告白し」 : ヨハネの洗礼は、水で罪を洗い清めるというものだった。

「ガリラヤ」 : イイススの故郷ナザレ村がある地方

「ヨルダン川」 : ガリラヤ湖から死海へと流れる全長425kmの川。 旧約の昔、神の民が奇跡的に渡った。

「思いとどまらせよう」 : ヨハネは、自分とハリストスの違いを熟知していた。

「すべての正しいこと」: ハリストスが洗礼を受けることによって、洗礼をとおして私たちに死と復活の恵みが与えられる。 /神として水を成聖する。

「神の御霊」: 神聖神のこと。

「はとのように」 : 鳩がノアの洪水の終焉 (平和の始まり)を知らせたことを想起させる。

「天から声」 : 神父の声。

父(声) と子 (ハリストス) と聖神 (鳩) 三位一体の顕れ

ハリストスは洗礼を起点として人々に福音を宣べ始めた(30歳)。 公生涯の始まり。

主の洗礼の神学

藉身の神ハリストスは、 浄められるべき罪などない。 ただ人間の罪の赦しのため、 再生 (死と復活) を与えるため、至聖三者を啓示するため、 水 ( 万物) を成聖するために洗礼を受けた。

三位一体の神 (神父と神子と神聖神°) が同時に顕現したので、これを祝う祭を「神現祭」 と言う。

この時から、神の光であるハリストスが世の中を照らし始めたので、 またの名を 「光照祭」とも言う。

「聖神°」は、天地創造の時に水の上を飛んでいた (創世記 1:2)。 洗礼は、 新しき創造をもたらす。

ハリストスは水で浄められたのではなく、水を浄めた (聖にした)。 水の成聖は、 被造物全体の成聖につながる。 正教会では神現祭において 「大聖水式」を行い、水を成聖したハリストスの恵みを現実化する。

主の洗礼祭(神現祭)の祈祷文より

①「言の声、光の燈台、日の暁たる前駆は野に於いて万の人に呼ぶ.悔改して預め己を浄めよ.けだし、視よ、世界を壊より拯うハリストスはここに立ち給う.」

②「主よ、爾は僕の形を受けて、 主の道を備えよと野に呼ぶ者の声に就き、罪を知らざる者にして洗礼を求め給えり. 水は爾を見て懼れ、前駆は戦きて呼びて日えり 如何ぞ燈台は燈を照らさん、如何ぞ僕は主宰に手を接せん、 世界の罪を任う救世主よ、 我と水とを聖にせよ.」

③「イオルダンに於いて聖三者の顕現はありき. けだし、 神の本性たる父は呼べり. この洗を受くる者は我の至愛の子なりと. 聖神° も己と悴しき者、人々が崇めて万世に讃め揚ぐる主と借に在せり」

光線 「天」からの 「神の光」「神父」の「声」

後光の中に owv 出エジプト記 3:14 でモーセに啓示された神の名òüv

( 存在する者)この強調された後光によってハリストスの神性が高らか

に響いてくる。

裸のハリストス 降誕の時も、洗礼の時も、十字架の時も、 ハリストスは裸だった。これらの裸は、神の謙遜 (ケノーシス)を意味すると同時

に、罪に陥る前のアダムの姿を想起させる (創世記 2:25)。 ハリストスはアダム (人間)の罪を赦す神であることを表す。

鳩のように顕れた神・聖神

聖神は見えない形で今もここに降りて来てくださる。

前駆授洗イオアン ハリストスの頭の上に手をかざして洗礼を授けている姿勢は伝統的なイコンの形。衣服の色合いも伝統に即して茶色と緑。

イオルダン(ヨルダン)川 写実的に見るとハリストスは川の浅瀬に立っ

ているように見えるが、そういう風に聴く(見る) のではなく、単に水の中に立って洗礼を受けている(水を成聖している)ことを静かに奏でていると聴きとる。

空が曇っているというより (写実的に見るのではなく)、空間と時間を超えた背景。ここはもはやヨルダン川ではなく、 このイコンの前に立つ者の心の中で起きているべき出来事。

主よ、爾、 イオルダンに洗を受くる時、聖三者に伏拝すること顕われたり.けだし、 父の声、爾を讃して至愛の子と名づけ、聖神°も鳩の形にて言の確かなるを固めたり.

現れて世界を照らししハリストス神よ、光栄は爾に帰す.

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ルカによる福音書 2:8~

さて、この地方で羊飼たちが夜、 野宿しながら羊の群れの番をしていた。 2:9 すると主の御使が現れ、主の栄光が彼らをめぐり照したので、 彼らは非常に恐れた。2:10 御使は言った、 「恐れるな。 見よ、 すべての民に与えられる大きな喜びを、 あなたがたに伝える。 2:11 きょうダビデの町に、 あなたがたのために救主がお生れに

なった。このかたこそ主なるキリストである。 2:12 あなたがたは、 幼な子が布にくるまって飼葉おけの中に寝かしてあるのを見るであろう。 それが、 あなたがたに与えられるしるしである」。 2:13 するとたちまち、おびただしい天の軍勢が現れ、 御使と一緒になって神をさんび

して言った2:14 「いと高きところでは、 神に栄光があるように、地の上では、み心にかなう人々に平和があるように」。

2:15 御使たちが彼らを離れて天に帰ったとき、 羊飼たちは 「さあ、ベツレヘムへ行って、主がお知らせ下さったその出来事を見てこようではないか」と、 互に語り合った。 そして急いで行って、マリヤとヨセフ、 また飼葉おけに寝かしてある幼な子を捜しあてた。 彼らに会った上で、 この子について自分たちに告げ知らされた事

を、人々に伝えた。 2:18 人々はみな、 羊飼たちが話してくれたことを聞いて、 不思議に思った。 2:19 しかし、マリヤはこれらの事をことごとく心に留めて、思いめぐらしていた。 2:20 羊飼たちは、見聞きしたことが何もかも自分たちに語られたとおりであったので、 神をあがめ、

またさんびしながら帰って行った。

=

マタイによる福音書 3:1~

3:1 そのころ、 バプテスマのヨハネが現れ、 ユダヤ

の荒野で教を宣べて言った、 3:2 「悔い改めよ、天

国は近づいた」。 3:3 預言者イザヤによって、「荒野

で呼ばわる者の声がする、 『主の道を備えよ、その

道筋をまっすぐにせよ』」と言われたのは、 この人の

ことである。 3.4 このヨハネは、らくだの毛ごろもを着

物にし、腰に皮の帯をしめ、 いなごと野蜜とを食物と

していた。 3:5… 人々が、ぞくぞくとヨハネのところに

出てきて、 3:6 自分の罪を告白し、ヨルダン川でヨ

ハネからバプテスマを受けた。

3:13 そのときイエスは、ガリラヤを出てヨルダン川に

現れ、ヨハネのところにきて、 バプテスマを受けよう

とされた。 3:14 ところがヨハネは、それを思いとどま

らせようとして言った、 「わたしこそあなたからバプテ

スマを受けるはずですのに、 あなたがわたしのとこ

ろにおいでになるのですか」。 3:15 しかし、イエス

は答えて言われた、「今は受けさせてもらいたい。 こ

のように、すべての正しいことを成就するのは、われ

われにふさわしいことである」。 そこでヨハネはイエ

スの言われるとおりにした。

3:16 イエスはバプテスマを受けるとすぐ、水から上

がられた。すると、 見よ、 天が開け、 神の御霊がはと

のように自分の上に下ってくるのを、ごらんになっ

た。 3:17 また天から声があって言った、 「これはわ

たしの愛する子、 わたしの心にかなう者である」。

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