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神父さんのおはなし

2025年7/1発行 会報『不来方より』抄録

 

岩手県出身の大谷翔平選手が相変わらずアメリカのメジャーリーグで活躍しています。
さて、先日大谷選手の所属するロサンゼルス・ドジャースと、同地区、 同リーグのサンディ エゴ・パドレスの間に不穏な事件が起こりました。両チームがそれぞれ対戦相手に多数のデッドボールを与え、それが故意なのではないかと双方の死球報復戦となってしまったのです。大谷選手も2度もボールをぶつけられ、 試合は緊迫した状況に陥りました。

 

実のところメジャーリーグでは報復の故意 死球というのはしばしば行われ、相手の不誠実なプレーに対して故意のデッドボールで復讐をするそうです。ぶつけられた側は故意死球に対してさらに復讐の死球を与え、だんだん双方の緊張が高まり、死球の応酬が止められなくなっていきます。 まして同地区同リーグの相手であればなおさらエキサイトしやすい下地があるということでしょう。

この報復の応酬はある意味では非常に 「人間的」な行為ともいえます。人類最古の法典と言われるハンムラビ法典で定められている のは「目には目を、歯には歯を」 の「同害復讐の法則」です(これは復讐のし過ぎを戒める目的であったとも言われていますが)。今の世界各地で行われている戦争や紛争にも報復の応酬という面があります。「やられたらやり返す」「やられたのにやり返さなかったら舐められる」。このような意識があるからこそ、私たちは復讐の連鎖を止められません。 自分が「やられた側」で終わるのは極めて不名誉で弱々しいことであるという認識が人間にはあるのです。

 

しかしやられたらやり返すことが本当に 「強く立派なこと」なのでしょうか。少なくとも、私たちキリスト者にとってそうではないはずです。 右の頬を叩かれたら左の頬を差し出せと語られるのがハリストスの教えでした。
自身が囚われ侮辱され殺されても、復活したイイススが天使の軍団を率いてエルサレムの神殿を襲い、指導者層を皆殺しにしたりはしなかったのです。残念ながらハリストスのこの姿勢は、後世のキリスト教徒に十二分に受け継がれたとは言い難い。もちろん中には復讐や抵抗をせず、主のための死を甘受した致命者たちも存在しますが、 今なお「キリスト教国」と呼ばれる国の人々が復讐の応酬に加担し、もはやどちらが最初にきっかけを作ったのか分からない(しかしどちらも相手こそが最初に引き金を引いたと言うことでしょう)争いを続けています。

 

話を冒頭のデッドボールに戻しましょう。 大谷選手は2度目の死球を受けた時、チームメイトが怒り、グラウンドに飛び出しそうになるのを手で制しました。ルール通り粛々と一塁に出塁し、次の打者の打席になればそれでいいじゃないか、ということです。確かに大谷選手にぶつけられた球は故意だったかもしれないし、それには報復の意味が込められていたかもしれません。しかし大谷選手はその「故意」や 「復讐の思い」をあえて汲み取らず、正当なプレーに戻ろうとしました。 この大谷選手の姿勢を球場の両チームのファンたちは惜しみなく賞賛しました。 私たちも本当は「何が正しいのか」 「何が強さなのか」知っているのです。知っているから彼の姿勢は賞賛されるのです。逆に復讐に走り、舐められないために報復を行おうとするのは、人間の弱さの故であり、偽りの強さの誇示に過ぎません。 国際間の緊張は私たちにとってあまりに遠く大きすぎる話かもしれません。しかし日々の生活の中の些細な出来事であっても同じことです。 復讐の思いが首をもたげてきたとき、私たちの本当の強さとは何か、 一歩立ち止まって考えてみたいものです。

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