北鹿ハリストス正教会 生神女福音会堂
神父さんのおはなし
ベスコンと大斎、至高のよろこび 2025年1月 会報『不来方より』抄録
日曜夕方にTBS系で「ベスコングルメ」という番組が放送されています。
「世界遺産」の次なので、そのまま何となく見ていることもしばしば。この番組のコンセプトは「ベストコンディション(ベスコン)に仕上げて、最後に美味しい食事をいただく」というもの。番組MCの芸人、麒麟の川島さんやオードリーの春日さんがゲストと一緒に2時間ほど歩いて目当ての店に向かいます。その間はどんなに美味しそうな食べ物があっても一切つまみ食い禁止。途中気になる食べ物があれば番組のADさんに食べてもらい、「美味しいですぅ」というコメントを恨めしそうに眺めるのがお決まりの展開です。そして、2時間の道を歩き終え、目当ての店に入ってようやく乾杯、美味しいご飯にありつくのです。
ベストコンディションに仕上がった空腹感が食べ物の味を際立たせ、「これが一番やわ~!」という喜びを引き出します。
さて、今年の2月も終盤になるといよいよ大斎準備週間の食事の節制が始まります。
大斎の1週前から肉類を控え、大斎が始まれば卵や乳製品も節制し、およそ50日後の復活祭に向けて準備をします。また、大斎期間は普段よりも祈祷の密度が増え、長い祈祷の中で何度も伏拝やひざまずきを繰り返します。
一見すると苦行のようにも見えますが、これを義務や戒律のように捉えるとその本質を見誤ります。大斎は復活祭に備え、もっと言えば天国へ備えるための、自分自身をベストコンディションに仕上げていく過程といえます。
美味しいお肉や甘いケーキなど食欲を満たしてくれるこの世の楽しみ、あるいは食事以外にも楽しいものはたくさんありますが、それをあえて遠ざけることにより、私たちは飢えを覚えます。そしてその飢えをあえて安易な方法(いわばつまみ食い)で満たそうとせず、ぐっとこらえながら復活祭を待ち、ベストコンディションに仕上げた状態で復活祭を迎えます。そうすることで、復活祭の華やかさ、眩しさ、歓喜が何十倍にも増して感じられるのです。これは大斎に取り組んできた人しか味わえない無上の喜びです。
食事を節制すること、数多くしかも時間のかかるお祈りに参祷すること、それは義務ではありません。取り組まなかったからといって復活祭に参加する資格が無くなるわけでも、破門されるわけでも、まして罪として裁かれ地獄に落ちるわけでもないでしょう。それでも大斎に取り組んできた人にしか得られない事柄は確実にあります。
私たちが復活祭から得られる喜びを最大限に受け取るためには、自分自身をベストコンディションに仕上げていく必要があり、そのことを知っていれば、この一見苦しい大斎の過程もまた喜びの一環として楽しんでいくことができるのです。
今年は一人でも多くの人が「ベスコン」で復活祭を迎えられるよう、ともに良い大斎期間を過ごしましょう。