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神父さんのおはなし

2026年8/1発行 会報『不来方より』抄録

「Aal izz well」――キリスト者の平安について

昔見たインドの映画に「きっと、うまくいく」という名作があります。多様な人々が集まるインドの工科大学を舞台に、ドタバタしたコメディが繰り広げられ…と思いきや強烈にシリアスな場面もあり、最後は強引に大感動へ持っていくという、感情山盛りのいかにもインド映画らしい作品です。

その作品の中に象徴的なフレーズが出てきます。それは「Aal izz well(All is well)」という言葉。インド訛りの英語で「あぁ〜りぃずうぇぇる」と聞こえるのですが、主人公の天才学生ランチョーは、子供の頃、夜中に見回りをする自警団たちが暗闇に向かって「Aal izz well」と声を出しているのをいつも聞いていました。何が出てくるか分からない夜警の中で、大人たちが「大丈夫だ、万事順調!」と声を上げていたことが心に深く刻まれ、彼の人生の座右の銘となったのです。

彼はどんなに不安でも、恐怖に押しつぶされそうでも、大きな声で「あぁ〜りぃずうぇぇる」と唱え、勇気を奮い立たせて明るく陽気に困難に立ち向かっていきます。その姿勢はいつしか友人にも伝染し、彼らもこの「Aal izz well」精神で様々なピンチを乗り越えていく――これが映画のおおまかなあらすじです。

さて、この「Aal izz well」精神は、私たちキリスト者にとっても大切な心構えだと思うのです。生きていく中で先の見えない不安や恐怖に立ちすくむことがあります。震え上がるほどの恐怖でなくとも、漠然とした将来の不透明さに息が詰まるような閉塞感を覚えることもあるでしょう。私たちは本能的に「先が見えないこと」を恐れます。人間の祖先がジャングルやサバンナで暮らしていた頃、薄暗い藪には恐ろしい獣が潜んでいたかもしれないし、暗い水の中にはワニがこちらを狙っていたかもしれません。

「一寸先は闇」と言いますが、見えない将来ほど不安で怖いものはないのです。

その暗闇の中で主は「恐れるな、私だ(イオアン 6:20)」と声をかけてくださいます。「私がいるのだから恐れることはない」と、震える私たちとともにいてくださいます。怖いものは怖い。しかしその恐怖が「先が見えないこと」から来るのならば、私たちの“先”はすでに主が約束してくださっていることを思い出すべきです。

ハリストスは私たちに永遠の生命を約束してくださいました。死のその先の栄光と歓喜が約束されていることを確信するのならば、私たちを脅かす「先が見えない」という恐怖は力を失います。「死ぬこと以外はかすり傷」という俗な言い回しがありますが、死を打ち破ったハリストスと結ばれた私たちキリスト者にとっては、極論すれば「死ぬことさえもかすり傷」なのです。

そこから自ずと「Aal izz well、万事順調、大丈夫」という思いが湧き上がってきます。

この「キリスト教的 Aal izz well 精神」の獲得は、キリスト者のこの世の歩みにおける一つの目標と言っても良いでしょう。映画の主人公たちは「恐怖をごまかすおまじない」としてこの言葉を唱えましたが、私たちにとっては気休めではなく、神の確かな約束として「大丈夫」と言うことができます。

信仰生活を重ね、自分の無力さと弱さを知った時、しかし自分は神に生かされているということを悟った時、深い安堵とともに「Aal izz well」の心が現れます。もはや何も恐れる必要はない。神が私のすべてを愛し、懐に抱いていてくださることが分かった。だからすべては大丈夫。万事順調。教会はそれを「平安」と呼ぶのです。

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